帝都怪奇譚⑤

犬神と譽と暁は、とある一つの答えに辿り着いた。 夏目美鈴の毎日の愉しみは、放課後の密会だった。佼しい彼女は男子生徒から人気があったが、美鈴はそれには目もくれず、授業が終わるとすぐに校庭に向かった。そして間諜のように辺りを見渡すと、校庭の木の…

帝都怪奇譚④

佐久間は今日の放課後にでも鵺野に掛け合って封鎖を解くと約束した。譽たちは今日一日、弁論部室を間借して活動を行うことに決めた。結城は最初見るからに不服そうな気色だったが、犬神が頼みこむと気安く間借を了承した。 ザカライアと中也も呼び寄せ、四人…

帝都怪奇譚③

誉はひどい眠気に押されて、梢が去るなりソファに寝ころんで泥のように眠った。昨晩のように夢は見なかったが、黒々とした闇の中に取り残されたような寂寞とした思いが睡りのさなかにも感じられた。この事件に関わることで、自分が常闇のほうへ押し出される…

帝都怪奇譚②

譽は、犬神の祖父、犬神聊斎の営む神田の古書店の二階に間借し、幻宗と聊斎とともに暮している。犬神と譽の生活は、洵に静穏無風とよぶに相応しい。聊斎の心遣いで、広い和室を襖で仕切って互いの自室としたが、二人は夜な夜な談論風発を繰り広げるので襖が…

帝都怪奇譚①

なぜ、わたしは母の胎にいるうちに 死んでしまわなかったのか。 せめて、生まれてすぐに息絶えなかったのか。 なぜ、膝があってわたしを抱き、 乳房があって乳を飲ませたのか。 それさえなければ、今は黙して伏し、 憩いを得て眠りについていたであろうに。(…